今回は、坂本貴志さんの著書【ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」】を分かりやすくブログ記事にまとめていきたいと思います。この本は、データに基づいて日本の経済の現状と未来を分析しており、非常に興味深い内容です。
給料は上がり、労働時間は減少:安い日本は終焉を迎えたのか?
まず、人口動態が経済に与える影響は非常に大きいです。人口の増減は、働く人の数、消費者の数、ひいては経済全体の活力を左右します。日本では少子高齢化が進み、働く世代が減少し、高齢者の医療や介護サービスへの需要が増加しています。これは都市と地方の格差拡大にもつながり、地方では過疎化が進み、都市部では人口集中による生活の質の低下が懸念されます。
日本の人口構造の推移(過去と予測)
国立社会保障・人口問題研究所の人口推計データ
日本の人口は、1960年の9300万人から2007年の1億2777万人をピークに減少傾向にあります。2023年には1億2434万人にまで減少しており、今後は減少速度が加速すると予測されています。これは国際的に見ても特異な状況で、他の先進国と比較しても日本の人口減少は急速に進んでいます。
『主要国の人口増減率(1970年ー2050年予測)』
特に、生産年齢人口(15歳~64歳)の減少は深刻で、2020年の7500万人から2040年には6200万人まで減少すると見込まれています。一方で、高齢者(65歳以上)の割合は増加の一途を辿り、特に85歳以上の超高齢者の急増が予想されています。
『日本の年齢別人口ピラミッドの変化1990~2065年(過去と予測)』
このような人口動態の変化は、消費構造にも大きな変化をもたらします。若い高齢者は多様な消費活動に参加しますが、年齢が上がるにつれて医療や介護サービスへの需要が急増します。
一方で、賃金にも変化が見られます。「安い日本」と言われて久しいですが、賃金を正確に評価するのは簡単ではありません。為替、世界経済、社会保険料の負担増、原材料価格の上昇など、様々な要因が絡み合っているからです。しかし、長らく賃金が上がらなかったのは事実で、その背景には労働市場の需給バランスが大きく影響していました。
『実質の年収水準の推移』
厚生労働省のデータによると、日本人の年収は1997年には430.5万円でしたが、2023年には369.5万円に減少しています。しかし、年収だけで賃金水準を判断するのは適切ではありません。この間、女性や高齢者の就労率が上昇し、短時間労働者が増加しているためです。
労働時間が全体的に減少している場合、時給ベースでの実質的な賃金水準は上がっている可能性があります。そのため、年収の変化を評価する際には、労働時間や時給といった別の指標も考慮する必要があります。
『実質時給と名目時給の推移』
実際に時給で見ると、状況は少し違って見えてきます。名目時給は2012年以降上昇を続け、2023年には2418円となっています。また、総労働時間も減少傾向にあります。つまり、時給は上がっているが、年収はそれほど増えていないという現象が起きています。
業種や地域によって賃金の上がり方は異なり、飲食宿泊業などで大きな伸びが見られる一方、教育や医療福祉分野では伸びが控えめです。また、地方で上昇率が高く、大都市圏では伸びが鈍い傾向があります。これは人手不足が原因と考えられ、特に地方や中小企業で深刻な人手不足が賃金上昇を後押ししています。
さらに、労働時間も急速に短縮されています。2000年には1839時間だった年間労働時間は、2022年には1626時間まで短縮されています。これは働き方改革関連法の影響が大きいと考えられます。
『ここに画像:日本の年間労働時間推移グラフと主要国比較』
特に若い世代の労働時間減少が顕著で、これは若者の価値観の変化や長時間労働の是正などが影響していると考えられます。労働時間が短縮されることで、実質的な時給は上昇していると言えます。また、サービス残業も大幅に減少していると見られ、これも実質的な賃金上昇につながっている可能性があります。
知っていれば200%得をする:これから日本で確実に起こること5選
ここからは、これまでの人口動態や賃金、労働時間の変化を踏まえ、これから日本で確実に起こることを5つにまとめて解説していきます。
1. 人手不足はますます深刻になる
人手不足は一時的な現象ではなく、人口減少と高齢化を背景とした構造的な問題です。これまで女性の就業率上昇が労働力を補ってきましたが、その伸びは限界に近づいています。高齢者の労働参加も期待されますが、健康面の問題などから限界があります。
『労働力需給ギャップの推計』
一方で、高齢化は労働力減少だけでなく、消費構造の変化ももたらします。医療や介護サービスへの需要は増加の一途を辿り、これらのサービスは機械化が難しく、人手を必要とする労働集約型の性格が強いです。
現在の人手不足は、賃金を上げても人材が集まらないという絶対的な不足というより、これまでの低い賃金水準では労働力を確保できなくなっているという相対的な不足が主な問題です。つまり、企業は労働条件を大きく改善する必要に迫られています。
2.賃金はさらに上昇する
人手不足が深刻化する中で、賃金上昇は避けられない流れです。企業は人材を確保するために賃金を引き上げるか、労働時間を短くするなどの労働環境改善を迫られています。
『企業規模別賃金制度の改定内容の推移』
しかし、全ての経営者がこの現実にすぐに対応できるわけではありません。多くの経営者は会社の成長がなければ賃上げは難しいと考えていますが、労働市場の変化は待ってくれません。人口減少により労働力が希少になる中で、賃金を上げなければ人材を確保できないという事実が企業経営にプレッシャーを与えています。
先見性のある企業は既に賃上げを始めており、優秀な人材の囲い込みを図っています。これは企業間での賃金競争を引き起こし、賃金上昇の波は業界全体、そして労働市場全体に広がっていきます。
このような賃金上昇は、単なる景気変動による一時的な現象ではなく、長期的な構造的変化です。労働力を安価に調達するというモデルは、少子高齢化が進む日本ではもはや成立しません。
3.労働参加は限界まで拡大する
高齢化が進む中で、非就業者の多くは高齢者です。彼らは主に公的年金に頼って生活していますが、日本の財政状況を考えると、年金給付水準の将来的な低下は避けられないでしょう。
『高齢就業者数の推移2010年~2020年』
年金が十分な収入を保証できなくなれば、高齢者が労働市場に戻ってくる可能性が高まります。労働市場では賃金が上昇傾向にあり、高齢者でもより良い条件で働けるチャンスが増えています。
物価上昇も高齢者の労働参加を後押しする要因となり得ます。豊かな生活を送るためにはより多くの収入が必要となり、高齢者も働く意欲を持つようになるかもしれません。
もちろん、全ての人が同じように市場に参加できるわけではありませんが、多くの人々がこれから労働市場に参加する機会を見出すはずです。企業側も柔軟な働き方や短時間労働などの選択肢を提供することで、このような変化に対応していくでしょう。
4.優先順位の低いサービスの消失
物価上昇は避けられない未来として語られています。これは消費者にとって歓迎すべきことではありませんが、今まで当たり前に享受してきたサービスが変わっていく予兆でもあります。
日本はこれまで高品質なサービスを比較的安価に提供できていましたが、これは大量の労働力投入によるものでした。しかし、人手不足と労働コスト上昇の中で、このようなサービスを維持することは難しくなります。
『経済産業省:物流を取り巻く現状と取組状況』
例えば、運送業では個別配達が廃止され、集配所での受け取りが主流になるかもしれません。
飲食店では従業員によるサービスが省略され注文や配膳はロボットに置き換われられるようになってきています。
このような変化はサービスの質低下と受け止められるかもしれませんが、背景には複雑な要因があります。これまで日本では、こうした丁寧なサービスの質が物価指数やGDPに十分に反映されていない隠れた価値として存在していました。
テクノロジーがこれを補う役割を果たす部分もありますが、介護や対人サービスなど人間の温かみが求められる分野では機械化に限界があります。
5.緩やかなインフレーションの定着
労働市場の変化が企業のコスト構造を根本から揺るがしています。人手不足と賃金上昇により、企業は製品やサービスの価格に負担を転嫁せざるを得ません。これは特にサービス分野で顕著になると予想されます。
『日本の消費者物価指数推移』
技術革新が一部コストを軽減する可能性はありますが、高度な接客や対人サービスなど人間にしかできない仕事は多く残ります。また、価格の動向は市場の競争環境にも左右されます。
これまでのデフレーション時代には、低価格の労働力を活用することで安価なサービスが提供され、生産性の低い企業も市場に留まり続けることができました。しかし、人口減少に伴う労働市場の変化によって、こうした構造は大きく変わろうとしています。
物価が徐々に上昇し続けるという新しい現実が定着していくでしょう。これは日用品や食料品の価格上昇など、私たちの日常生活に直接的な影響を及ぼします。
まとめ
データに基づいて日本の経済の現状と未来を分析したものを紹介しました。人手不足、賃金上昇、サービスの変化、そして緩やかなインフレーションの定着など、これから日本で起こることは多岐に渡ります。これらの変化を理解し、適切に対応していくことが、これからの日本社会にとって重要になるでしょう。
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